- 2026.5.7
- 磯部内科クリニック
- 投稿者:院長 磯部 智

1.たこつぼ心筋症とは
たこつぼ心筋症という心筋梗塞に類似したユニークな疾患があります。
この病名は、広島市民病院・佐藤 光先生によって命名された「日本発」の疾患 1 つです。
たこつぼという病名は、心臓カテーテル検査時の左心室造影検査の所見が、タコを捕獲する壺に類似していることより名づけられました
(写真1:実際類似しているか?です)。

2000 年代初期までは、たこつぼという病名は海外では認めてもらえず、「心尖部バルーン状の心筋症」や「フラスコ様心筋症」という表記でした。
当然海外にはたこつぼはなく、理解しがたい名前でした。
しかし日本を中心にこの疾患の解明が進むにつれ、2005 年以降たこつぼという病名が海外でも認められるようになり、より幅広く研究がすすめられ、西洋圏でも「国際たこつぼ登録」という患者さんのデータベースづくりも始まりました。
2.特徴と原因
この疾患の大きな特徴は、中年以降の女性に数多く発症し、心尖部中心に一過性の心筋壁運動異常が認められ、生命予後が良好な疾患であるところにあります。
強烈なストレスを契機に発症することが多く、ストレス時に一気にカテコラミンが増加することによるカテコラミン毒性(過剰なカテコラミンの存在のため、心筋壁運動に必要なエネルギー源であるブドウ糖が心筋に取り込まれなくなること)が原因と考えられています。
1995 年の阪神淡路大震災、2004 年の新潟中越地震、2011 年の東日本大震災後でこの疾患が増えたという報告からも、強いストレスが発症要因になりうることが容易に推測されます。
女性は男性と異なりデリケートな性格を持ち、身体的・精神的ストレスに対してナイーブな性特異性が、この疾患の発症に何らか関連するものと推測され、また女性ホルモンの存在もこの疾患の発症と関連するともいわれています。
3.症状と診断
この疾患は、胸痛、呼吸困難といった急性心筋梗塞や不安定狭心症と類似した症状で発症するため、心臓発作を起こしたと思い救急車で救急外来に搬送されてくる場合がほとんどです。
心電図変化も心筋梗塞に類似し、心臓超音波検査で明らかに心筋壁運動異常が認められるため、緊急で冠動脈造影検査が施行されます。
その検査で冠動脈に閉塞や高度狭窄などの異常がない場合に同時に左心室造影検査が施行され、心尖部中心の特有な壁運動異常が認められ(写真2)、診断に至ります。

4.経過
一般的には経過は良好な疾患であり、入院時に認められた壁運動異常も数日で改善し、大きな合併症なく早期退院が可能となります。
まれに致死性の不整脈や重症心不全に陥り、最悪死に至ることもありますが、その比率は数 % 程度です。
しかし、再発を繰り返す報告もあり注意が必要です。
5.予防
予防法に対しては確立されたものがなく、しいていえば、ストレス下に置かれない生活を心がけること、ストレスを上手に発散することなど、漠然とした予防対策法にすぎません。
心筋梗塞は生命危機に及ぶ重症な心臓病で、一刻を争う治療を必要とし、またストレスを契機に発症する疾患の 1 つです。
ストレス下にさらされたあと胸痛や呼吸困難を自覚した場合、急性心筋梗塞ならびのこの疾患を診断する必要性がありますので、迷わず救急車を要請し、病院を受診することをお勧めします。
(エスエル医療グループニュース No.146 2017年8月)
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