前立腺がん検診(PSA 検診) =もし要精査の結果を受け取られたら=

医師の診察を受けているイラスト1.PSA検診と前立腺がんについて

当院を受診される中高年の男性患者さんの中で、排尿困難や頻尿などの排尿トラブルと並んで多いのは「検診でPSA高値を指摘された」という方です。

血液中のPSA(前立腺特異抗原)を測定することは、前立腺がんをスクリーニングする腫瘍マーカーとして極めて有用なものです。

2.PSAとは?

PSAはもともと正常前立腺細胞から分泌されるタンパク分解酵素の一種で、精液中の蛋白を分解して精子の運動を高める役割を果たしています。

PSAのほとんどは精液中に分泌されますが、ごく一部は血液の中にも入ります。
前立腺がんがあると周囲の正常な前立腺を壊して血液中のPSA値が高くなると言われています。

しかし、がん以外の良性の前立腺疾患(前立腺肥大・前立腺炎など)や尿道カテーテルを留置するなどの医療行為でも値が上昇します。
このため、がんの確定診断には前立腺組織のがんを疑う部位を生検して病理診断を行う必要があります。

3.PSA検診とリスク

PSA検診は50歳以降から施行され、PSAのカットオフ値(正常の上限値)は4.0ng/mlとなっています。

しかし父親に前立腺がんがある方は、2.5~5.6倍に罹患リスクが上昇すると言われており、40歳代から人間ドックでチェックすることが勧められます。

4.当院での診察の流れ

検診でPSA高値を指摘されて当クリニックを受診されたときには、排尿状態についての問診、スコアの記入、検尿・尿沈渣、超音波検査による前立腺体積の計測および直腸指診を行っています。
直腸指診は肛門から指を入れる不快な検査ですが、発生頻度の高い尖部辺縁域にできたがんを触知できるので有用です。

検尿では膀胱炎や前立腺炎などの尿路感染がないかを確認しています。なぜなら尿路感染があるとPSA値は上昇するからです。
この場合は尿路感染を抗菌剤で治療してから再検します。

前立腺体積が大きい(前立腺肥大)とPSA値は高くなる傾向があるため、超音波検査で体積の測定も行います。

また、PSA値については今回指摘されたデータに加え、以前受けられたデータもお持ちいただくと判断の参考になります。
PSA値が1年間に上昇する数値はPSA velocityと呼ばれ、これが0.75ng/ml/year以上だとがんの可能性が高くなると言われています。

これらを総合して、次の検査すなわちMRIをお勧めするかどうかを決めています。

5.MRI検査の役割

MRIは前立腺のどの部位にがんの存在が疑われるのかという局在診断に非常に有用です。

撮影には近くの画像診断専門のクリニックを紹介しています。そこでは放射線診断医がPI-RADSという国際的な基準に従って読影し、悪性を疑う点数を付けてくれます。

カテゴリー4や5の方はがんの可能性が高いため、ご希望の病院に紹介し、多くは1泊2日の前立腺針生検の検査を受けていただきます。

6.PSA値とがんの発見率

PSAについては値が高くなると、がんが診断される確率も高くなります。

前立腺癌研究財団の報告によると、がんの発見率は

・2~4 ng/ml … 6%
・4~6 ng/ml … 20%
・6~10 ng/ml … 28%
・10~15 ng/ml … 35%
・20~30 ng/ml … 53%
・50~100 ng/ml … 97%

このうち4~10ng/mlの方を「グレイゾーン」と呼びます。

7.グレイゾーンの課題と新しい検査

グレイゾーンで見つかったがんの方は早期前立腺がんの可能性が高く、根治治療すなわち手術(ロボット支援前立腺全摘除術)や放射線治療(IMRT による外照射、ブラキセラピー、粒子線治療 名古屋市では西部医療センターの陽子線治療)などの対象になってきます。

しかし、PSA値だけで生検を行うとがんは約3割で、残りの約7割の方は余分な検査を受けることにもなります。いかに余分な生検を減らせるかが、最近の前立腺がん診断のトピックスになっています。

PSA 値が 4~10ng/ml の方を対象に次の3つの検査が保険適応となっています。

① F/T 比、②Phi(Prostate health index)、 ③ S2, 3 PSA% です。

①は蛋白と結合していないフリー PSA と全体の PSA の比を求めるもので、癌患者ではフリーPSA が少ないこと、
②は PSA の前駆体である[-2]proPSA が癌患者で増加すること、
③は癌患者では PSA の末端構造が変異して S2, 3PSA が増えることを利用して癌診断の精度を高めるものです。

カットオフ値の感度を90%にすると、特異度は①や②が20~30%であるのに比べて③では50%以上と高く、より多くの方が生検を回避できます。

S2,3PSA%は2024年2月から保険適応が認められた最新の検査です。当院では今後、このS2,3PSA%とMRIを組み合わせて、より精度を高めて生検をお勧めできるように努めていきたいと考えています。

8.さいごに

前立腺がんは2015年以降、男性がんの罹患率予想の第1位になっています。

PSA検診は男性にとってだけでなく、大切なパパを守る意味で家族にとっても大事な検査です。

ぜひPSA検診(名古屋市ではワンコイン検診)を受けてください。ご家族の方もPSA検診をお勧めください。

(エスエル医療グループニュース No.169 2025年4月)

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