- 2026.5.25
- 関谷耳鼻咽喉科
- 投稿者:関谷 芳正

日本で辛(から)いというと塩からさと唐辛子のからさの二通りの場合で使われます。
かつて日本では唐辛子をメインとして使う料理はほとんどなかったことから従来辛いという言葉は塩辛さに使われてきました。
たとえば甘辛く煮込むというときには砂糖としょうゆで煮込むものですし、甘口・辛口といった時の辛口も塩辛さを前提にした表現です。
ところが最近では激辛ブームのおかげか辛いというとどちらかというと唐辛子の辛さを指すことのほうが多くなってしまいました。
人生で激辛と初めて遭遇したのは大学の時に近くにできた焼き肉屋さんに行って、初めてキムチを食べたときでした(当時、私の田舎には焼き肉屋がありませんでした)。
このときはその辛さに口から炎が吹き出、舌が痛くていったい何を食べてしまったのかとびっくりしてしまいました。
今思うときっと普通の辛さのキムチだったのでしょうが未経験だっただけにパニックになってしまいました。
その後は台湾ラーメンや激辛麻婆豆腐を食べては悶絶を繰り返していたのですが、幾多の試練を乗り越え、最近では少しぐらい辛くても平気、それどころか辛くなくてはもの足りないくらいになってしまいました。
とはいっても CoCo 壱のカレーは2辛ぐらいでかわいいものなのですが。
世の中にはいくら辛くても平気な人もいて、恐ろしいほどの辛さのものでも平気に食べてしまう人達がいます。
いったいこの人たちの舌や味覚がどうなっているのか不思議に思ってしまうと同時に少し尊敬さえ覚えてしまいます。
さて、話を戻しますが、日本語で塩辛さと唐辛子の辛さが混同して表現されてきたのはこの両者が味に刺激を与え、食が進むようにするという意
味で同じ範疇の概念に入っていたからでしょう。
最も日常生活では状況からなんとなくどちらの辛さを示しているのかわかるので2種類の辛さを混乱することはさほどないかとおもうのですが。
ところで、この塩辛さと唐辛子の辛さとは味覚という観点からは全く違っています。
まず、唐辛子の辛さは味覚ではないのです。
研究者たちによれば、現在味覚としては甘み、塩からさ、苦(にが)み、酸み、さらにうまみの5種類があると考えられています。
これらは主に舌にある味蕾という組織の中にある味覚細胞が関与することで味を感じ取っています。
ところが唐辛子の辛さに関してはこの味覚細胞はまったく関与していなくてカプサイシン受容体が痛覚として感じ取っていて、厳密には味覚ではないのだそうです。
舌での適度な痛みの感覚が脳で処理されることで辛さとしてそして料理のうまさとして感じるのでしょう。
「日本味覚と匂学会(こんな学会があるのですね)」編の「味のなんでも小事典※1」という本によれば「辛みは味覚か?」との問いに生理学的には「ノー」であるけれども、食品学的には「イエス」なのだそうです。
なお、渋みや油の味も生理学的には味覚には含まれていないとのこと。
先ほど味覚は「主に」舌で感じると述べましたが実は舌以外にも上あごやのどにも味を感じる感覚器である味蕾があり味を感じることができます。
味に関する神経も舌の前は顔面神経から派生する鼓索神経、のどの奥は舌咽神経、さらに上あごは中間神経によって味覚を感知しています。
このように味覚は一つだけではなくいくつかの神経が関係しているため特定の神経の障害だけでは味が全く分からなくなることはありません。
そのため嗅覚に比べて味覚は比較的強く、味がわからないと訴える人でも検査をするとある程度の味覚は残っている場合が大半です。
一方、全くにおいがわからなくなることは決してまれではありません。
味覚障害は加齢に加え片寄った食生活やよる亜鉛の欠乏や各種薬物の摂取、糖尿などの疾病、口腔衛生の問題、風邪などのウィルス感染などいろ
いろな原因で起きます。
味覚が変、食べ物がおいしくなくなったというときには早めに耳鼻科を受診してください。
テレビを観てもグルメ番組ばかりです。
人にとってものを食べることは究極の本能なのかもしれません。
おいしいものがいっぱい食べられるということを感謝しつつ、頭に汗をかきながらこれからも辛い物をいただきたいと思っています。
※1 ブルーバックス 講談社 2016 年発行
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