心房細動と脳梗塞

1.はじめに
患者さんに一番罹りたくない病気は何でしょうと伺うと、脳梗塞ですとおっしゃる方が多いようです。
脳梗塞の三分の一は、実はその原因が心臓にあり、心房細動という不整脈が脳梗塞を引き起こしているのです。

2.心房細動とは
心臓の拍動は、心臓の中を流れる電気信号によって調節されています。
正常な動きの場合、洞結節という所から規則的な電気信号が起こります。
心房細動では多数の異常な電気信号が心房の中を不規則に走り回る状態となり心房は痙攣した状態になります。

心房細動は年齢が上がるにつれて発生率が高くなり70歳代の5%、80歳代の10%の方に見られ、また女性よりも男性に多く発生し、日本では70万人以上が心房細動を持っていると推定されています。
心房細動はそれ自体が命に関わるような不整脈ではありませんが、動悸、息切れ、疲れやすいなどの症状が現れ、また何より脳梗塞の発生率が高くなるためその予防をすることが大切になります。

3.心房細動と脳梗塞
心房細動になると心房がいわば痙攣するように小刻みに震えて、規則正しい心房の収縮ができなくなります。
このため心房内の血液の流れがよどむことで、主に左心房の壁の一部に血の固まり(血栓)ができ、これがはがれて心臓から動脈に沿って流れて、脳の中の大きな血管を突然閉塞するのが心原性脳塞栓症という脳梗塞です。
心房細動のある人は心房細動のない人と比べると、脳梗塞を発症する確率は約5倍高いと言われています。
心房細動が原因で起こる脳梗塞は、その他のタイプの脳梗塞に比べて、突然大きな血管が詰まるため重症になりやすく、NHKのためしてガッテンでは心房細動による脳梗塞をノックアウト型脳梗塞と呼んでいます。
脳梗塞を起こす範囲が広く命に関わることや、寝たきりになる頻度が高く、一命を取り留めても重篤な後遺症を残すことが多いのです。

4.脳梗塞のリスクの高い人は?
心房細動と診断されたからといってすべての患者さんが脳梗塞になるわけではありません。
どのくらい脳梗塞を起こす危険性があるかを予測し、危険性の高い方には脳梗塞を予防する薬を服薬して頂きます。

現在、心房細動の患者さんに対して脳梗塞を予防するための抗凝固療法を開始するかどうかを決める際に最もよく使用されている指標がチャッズ2(CHADS2)スコアです。

心不全がある(C) 1 点
高血圧がある(H) 1 点
年齢 75 歳以上(A) 1 点
糖尿病がある(D) 1 点
以前脳梗塞になったことがある(S) 2 点

これらを足し算し、この点数が高いほど脳梗塞の危険性が高くなり、1点以上の方は抗凝固薬による治療が勧められ、2点以上の方は治療が必ず必要となります。
治療により脳梗塞の危険性を約70%減らすことが出来るといわれています。

5.ワルファリンそして新規抗凝固薬
抗凝固療法に用いる内服薬は最近まで30年以上ワルファリンが独壇場でした。
ワルファリンは非常に優れた薬ですが、必要量には個人差があり他の薬剤や食事の内容に影響され、また多すぎると出血の危険があるため一か月に一度程度血液検査を行う必要があります。
最近ワルファリン以外に4種類の新しい抗凝固薬(プラザキサ、イグザレルト、エリキュース、リクシアナ)が認可され、使われるようになりました。
この新規抗凝固薬は、①内服開始したその日から十分な効果を発揮、②食事制限が不要、③投与量の調節がいらず安定した抗凝固作用を発揮、④安定すれば毎回の採血検査は不要などのワルファリンにはない特徴があります。
その脳梗塞予防効果はワルファリンと同等かそれ以上ですが、新規抗凝固薬は薬価が高く、用量調節がしにくく、高齢者では効きすぎることがあり、また弁置換の手術を受けた方などには使うことが出来ません。
従って、ワルファリンと新規抗凝固薬の適切な使い分けが必要になります。

6.終わりに
心房細動は高齢の方によく見られる病気ですが、適切な治療が行われないと脳梗塞を起こしやすく、有名な元野球監督や元総理大臣のように重い後遺症が残ったり、生命にかかわる事態となります。
心房細動と診断されたら専門医に是非ご相談ください。

(エスエル医療グループニュース No.139 2015年8月)

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