- 2025.5.29
- 森川クリニック
- 投稿者:森川 建基
さて、「美味しい睡眠をとりたい人々」シリーズも今回が最後となります。前回までは、さまざまな物理的な睡眠導入法についてご紹介してきました。
今回は、イメージトレーニングを活用した睡眠導入法についてお話しします。
たとえば――
好きな絵を思い浮かべる
好きな動きを反復してイメージする
好きな趣味のワンシーンを頭の中で再生する(私の場合は、グライダーの離陸のイメージです)
私の40代は、まさに「ガチガチの不眠症」だった時期で、仕事上でも週に2回の徹夜残業は当たり前でした。
当時は、グライダーとセスナの操縦技術を磨こうと、毎週日曜日(晴れていて風の強くない日)には、静岡から富士川河川敷の小さな飛行場へ通い、操縦訓練に励んでいました。
特にグライダーの操作は、離陸と着陸が非常に難しく、それに慣れてくると、もうグライダー飛行の虜になってしまいます。
中でも離陸時の感覚は、精神が高揚し、たまらない醍醐味があります。
離陸の流れはこうです。
まず曳航機(グライダーを空中まで引っ張るためのセスナ機。当時は馬力の強い「パイパー」という機種)に牽引されて始動します。そして、曳航機が離陸する前に、グライダーが約50センチほど先行してふわりと浮上し、負担をかけないようにしながら引っ張ってもらいます。
曳航機が浮上したら、すぐにその真後ろにぴったりと付いて徐々に高度を上げていきます。必死に位置を保ちながら操作を続けていると、ふと気づけば高度500〜600メートルに達しています。
この時点で、無線で連絡を取りつつ曳航ワイヤーを切り離すと、いよいよグライダー単体での飛行に移行します。外の世界は風の音だけになり、まさに鳥が大空を飛翔しているような感覚に包まれます。
足下には、東名高速を走る車が小さな点のように見え、地上にいたことがバカバカしく思えるほどの爽快感です。
その後は、上昇気流を見つけて、そこにうまく乗っていく必要があります。乗れなければ、グライダーはゆっくりと降下してしまうため、そのまま飛行場へ直行して着陸しなければなりません。
——と、まぁこのようなシーンを、布団の中でゆっくりと思い出していると、気がつけば朝になっている。私にとっては、まさにこれが最良の催眠剤なのです。
皆さんにも、何か「良いイメージ」「楽しい記憶」「心地よく想起できる瞬間」があるのではないでしょうか?
そうしたイメージを使って、眠りに導かれる工夫をしてみるのも一つの方法です。
もっとも、それでもどうしても眠れないときは、不眠外来で一定期間、催眠剤の処方を受けるのも必要な選択肢かもしれません。
エスエル医療グループニュース No.125(2010年12月発行)

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