気圧と気象病

気圧の影響で頭痛がするイラスト1.気象病とは

皆さん、気象病という病名をご存知でしょうか。
気象病とは、文字通り気象の変化によって生じる体調不良や病気の総称です。

現在、日本において気象病で悩む患者さんは約 1000 万人とも言われており、近年の異常気象でさらに増加傾向にあると考えられます。
気象病には、花粉症や熱中症など、その原因や対策がある程度わかっているものから、雨や台風の接近に伴って生じる頭痛、肩こり、めまい、神
経痛、季節の変わり目に生じる喘息発作、気分の落ち込み(鬱)など、気象との関連については、ともすれば気のせいとか単なる偶然として受け流
される傾向にあったものまであります。

近年、気象病の発症の原因においてはっきりしなかった部分の仕組みが明らかになり、それに特化した診療をする気象病外来も設けられるようになってきました。

2.「気圧」との関係

気象病において「はっきりしない部分」の原因は、気象の変化に対して、自律神経における身体の自動制御機能が追い付かない、あるいは過剰に反応してしまうことにあると考えられており、気象病はいわゆる「自律神経失調症」の側面をもっているとも言えます。

そして最近、「気圧」がその原因の一端を担うものとして注目されるようになってきました。
台風の接近などで気圧が大きく低下すると海水面が上昇し、過ぎ去ればもとに戻ります。
このような外気圧の変動に応じて、人間の身体も膨張・収縮し、肺や血管なども影響を受けます。
最近の研究において、耳の奥の「内耳」に気圧の変化を感知するセンサーの存在が解ってきており、これが自律神経に指令を出して、外気圧の変動に対して何とか体内の環境を一定に保つよう調節しているようです。
しかし調節が追いつかない場合、例えば、肺の圧が上昇して喘息の悪化が生じたり、頭の血管が膨張しその傍にある神経が圧迫され頭痛が生じたりします。
また圧の上昇により血管から水分が染み出すと、手足にむくみが生じたり、平衡感覚をつかさどる「内耳」にむくみが生じると、めまいの原因となります。

さらにこのような気圧の変動に、センサーや自律神経が「過剰反応」してしまうと、痛みや気力に影響するセロトニンという脳内物質の分泌に影響が出て、神経痛や気分の落ち込みの原因となるようです。
またこの過剰反応が極端な血管の収縮・拡張、脈拍の変動を引き起こすことがあり、これは血圧の乱高下や心筋梗塞の発症、不整脈の発作につながります。

心筋梗塞の発症には季節性があり従来から冬季の温度変化、ヒートショックによる発症が多いことはよく知られていますが、広島市の消防局の心筋梗塞患者の救急搬送数からのデータによると気温の低下に加え、さらに気圧の低下が加わると搬送数が増えるという結果もあります。

3.気象と東洋医学

東洋医学では昔から気象を風寒暑湿火の「六気」に分けて病気と関連づけてきました。
この六気の中に気圧にピッタリ当てはまる要素はありませんが、身体の中で体液の偏りが生じた状態を「水毒(すいどく)」と言い、気圧の変動による気象病は、前述した仕組みによって血管の膨張やむくみを生じることから水毒と言えます。
漢方薬の五苓散はこの水毒によるむくみ、めまい、頭痛などの症状に効果があります。

また、経穴(ツボ)において、水毒全般には足の裏にある湧泉(ゆうせん)が、水毒によるめまいには手の甲の小指と薬指の間にある中渚(ちゅうしょ)が、有効とされます。

また東洋医学からみた肺の役割は水分の交換であることから、気圧変動で肺が鬱血し水毒の状態となって生じた喘息発作には、肺経(はいけい)という経絡にある手の母指球上の魚際(ぎょさい)というツボも有効とされます。
これらは名前からもわかる通り(泉)、(渚)、(魚)など水に関する名前がついていることから水(すい)の巡りを良くします。

また、気分の落ち込みや自律神経の安定化に対しては “ 心 ” の名の付く経絡、心包経(しんぽうけい)の代表的なツボ、内関(ないかん)が有効とされます。



最近はスマホなどのアプリでも気温だけでなく気圧の変化も容易に知ることができるので、それらを活用して自ら気象を予測しながら、必要に応
じて薬を服用したり、自らツボ刺激やお灸をするなどの工夫も有用かもしれません。
一度試してみてはいかがでしょうか。

(エスエル医療グループニュース No.158 2021年8月)

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