精神科の病名と「適応障害」について

1.精神障害の病名について

精神障害の病名には、うつ病、統合失調症、パニック障害、アルコール依存症、認知症などがありますが、その他にあまり病気らしくない病名もあります。
「適応障害」もその一つでしょう。

2.適応障害とは

適応の障害といえば、周囲の環境にうまく適応できない時に普通でも使われる表現とも言えます。
しかし、適応できない時に精神症状が発生し、不眠・不安・うつ状態などが続いてしまう場合に、病気として扱われることになります。

3.精神障害の原因

精神障害には、その原因として身体的・器質的な要因がはっきりしているものがあります。

(1)認知症
認知症は、脳の細胞の減少に伴う認知機能の低下による症状から病名がつけられています。

(2)うつ病・統合失調症
うつ病や統合失調症の場合は精神症状の特徴から診断されます。
抑うつ気分が続けば「うつ病」、幻覚や妄想が続けば「統合失調症」という具合です。
ただし、これらは単純な一つの原因ではなく、複合的な要因によって発症すると考えられています。

(3)パニック障害
パニック障害は、精神的不安が自律神経を過剰に興奮させ、不安が不安を呼ぶ悪循環に陥ることで発症します。
脳の器質的異常は認められず、個人の資質が影響している精神的・心理的反応とみなされます。

(4)アルコール依存症
アルコール依存症(中毒)は、アルコールの過剰摂取が原因で、それが止まらないという依存状態が精神症状を引き起こします。
これはアルコールという「環境要因」によるものです。

4.精神科の特徴と「適応障害」という診断名

個人的な身体的原因だけではなく、「社会的要因」を加味して病名がつけられるのは精神科特有かもしれません。

環境や人間関係など様々なストレス要因にさらされ続けた結果、精神症状が発生し、ストレス要因がなくなれば症状が改善する——。
かつて「心因反応」「ノイローゼ」と呼ばれていた障害が、国際的な病名統一の動きに伴って「適応障害」とされました。

具体的には、長時間労働・対人関係・パワハラ・セクハラなどに耐えきれずに発症する障害に対する病名です。

5.適応障害の症状と特徴

適応障害の症状は、不安症状、うつ状態、不眠、自律神経失調症状などです。
うつ病の症状と類似していますが、うつ状態は比較的軽く、ストレス要因がなくなれば回復するという点で区別されます。

一方で、適応障害は「普通の不適応」が極端になっただけ、という見方もあります。
厳密にいうと、どこから病気でどこから病気でないのか、その境目は流動的です。

実は他の精神障害でも、病気の線引きが難しいものが少なくありません。そのため精神科では「○○病」より「△△障害」「××状態」といった病名が多く使われます。

6.診断名のあいまいさ

したがって、「うつ状態」という診断には「うつ病」から「適応障害」までの病気が含まれていることになります。
「適応障害」と診断されたり、「うつ病」と診断されたり、「うつ状態」とされたりするため、診断名はあいまいです。

そのため、診断名にこだわらず、広く「うつ」と考えておくのがよいともいえます。

7.精神障害は複合要因で生じる

精神障害の症状は、脳の損傷による病気でも心理的反応が生じたり(例:認知症の行動・心理症状)、統合失調症でも環境要因によって精神症状が変化したりします。
また、特定の環境(人混み、電車の中など)でのみパニック発作が出ることもあります。

このように、身体的要因・精神機能・環境要因が複合的に絡み合って生じるのが精神障害の特徴です。
適応障害の場合も、個人の身体的資質に社会的環境要因が加わり、いくつもの要因が絡み合ったものと考えられます。

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