糖尿病と目



近頃、糖尿病にかかる人は増加しています。
2007 年の厚生労働省による、国民健康・栄養調査では、糖尿病が強く疑われる人(糖尿病治療中もしくはHbAlc<JDS値> >6.1%であった人)の数は890万人、糖尿病の可能性が否定できない人(HbAlc<JDS値> が5.6%以上、6.1%未満)を加えると、なんと2210万人(5人に1人!)になります。

1.藤原道長と糖尿病
このように、その患者数を増やしている糖尿病ですが、昔の著名人の中にも、この病気を患った方がいます。
「この世をば我が世とぞ思う望月のかけたることもなしと思へば」という歌を詠んだ藤原道長は、平安時代、栄華の頂点を極めた方ですが、実は、糖尿病を患い、その合併症に苦しんでいました。

道長は当時、関白太政大臣という最高位につき、3人の娘を次々と皇后にして、わが世の春を謳歌した人物です。

彼の糖尿病の病状については、藤原実資の「小右記」に記録があります。
「しきりに水がほしくなり、最近では、昼夜の別なく、口が渇き水を飲むが、食事は減っていない。とにかく体がだるい。」というのがその症状です。
また、「御堂関白記」には「近寄らなければ汝の顔が見えない」とあり、糖尿病網膜症や白内障による視力障害が生じていたと思われます。
62歳で亡くなりましたが、その際には、背中の腫物が化膿し、敗血症から多臓器不全に至ったと思われる記録もあります。
これも糖尿病による免疫能の低下によると思われます。

平安時代、道長をも苦しめた糖尿病、その本当の怖さは、無自覚、無症状のうちに少しずつ進行し、さまざまな合併症を引き起こすことにあります。合併症の中でも失明につながる糖尿病網膜症は大変に怖い合併症です。
実際、糖尿病網膜症は成人の失明原因の第2位となっています。

網膜症は、糖尿病の全身症状と同じように無症状に進行し、視力障害などの症状が出るころには、かなり重症になっている場合が多いのです。

2.糖尿病網膜症
糖尿病網膜症は網膜が障害される病気です。

網膜は、眼球の奥の壁の内側にあります。
目をカメラに例えると、フィルムにあたる部分です。

糖尿病有病期間と網膜症発症率を調べると、糖尿病を患う期間が長いほど、網膜症を発症している方が多いということがわかりました。

糖尿病網膜症では、視力障害や視野欠損、物が歪んで見える、黒いものが飛んで見えるなどの症状がありますが、これらの多くは、眼病変がかなり進行してからでないと出現しません。
ですから症状が出る前に眼科を受診することが必要なのです。

3.糖尿病網膜症の分類
糖尿病網膜症は進行程度により、単純網膜症、増殖前網膜症、増殖網膜症の3つの病期に分かれます。

初期にみられる単純網膜症では、網膜に毛細血管瘤や点状出血、硬性白斑が出現しますが、無症状のことがほとんどです。
この時期の治療には、血糖のコントロールが大切です。

中期にみられる増殖前網膜症では、網膜に少し大きめの出血や、綿雲のように見える軟性白斑が出現します。
この時期は毛細血管という細い血管が閉塞し、放置すると増殖網膜症へ進行するため、レーザー治療が必要となります。
残念なことにこの時期に至っても無症状のことが多く、定期的な眼科受診をしていないと進行を止められません。

さらに進行して増殖網膜症になると、血管が閉塞した部位に新生血管が出現してきます。
新生血管はその壁がもろいために大出血をおこしたり、結合組織を伴って増殖して網膜剥離を生じて失明に至ることもあります。
この時期は血糖コントロール、レーザー治療に加えて硝子体手術が必要となる場合があります。
しかし、手術が成功しても網膜が傷んでいるために良好な視力が出ないことも多いです。
また、いずれの病期でも糖尿病黄斑症といって、視力に最も重要な網膜の黄斑部と呼ばれる場所にむくみが生じて視力低下をきたすことがあります。
黄斑症に対してはレーザーや薬物の眼内注射などの治療が必要となる場合があります。

大切な視力を失わないためには、糖尿病と診断されたら症状がなくても、すぐに眼科を受診して定期検査をうけることが大切です。


(エスエル医療グループニュース No.138 2015年4月)

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