- 2026.6.29
- はまだ代謝内科
- 投稿者:院長 濱田 洋司

はじめに
糖尿病や肥満、メタボリック症候群などの生活習慣病の治療において、食事内容は重要な意味を持っています。
これまでの食事療法では、カロリーや体内での栄養素の働きが重視され、多くの検討がなされてきました。
また生活習慣病に対する薬剤の効果も、体内での作用に関心が払われてきました。
一方、近年の研究では、腸内の細菌が生活習慣病に大きな影響を与えていることが明らかになりつつあります。
このことから、食事や薬剤が腸内細菌に及ぼす作用が注目されるようになってきています。
腸内細菌は私たちの健康に大きな影響を与えている
私たちの腸には数兆個の細菌が住んでいると言われています。
その細菌の遺伝子の数を総合すると、私たちの体の全遺伝子の数よりもはるかに多く、100 倍以上と考えられています。
腸内細菌は食べ物の分解・発酵を担っており、この過程で産生された多様な物質(代謝産物)が、腸の粘膜を通じて私たちの体内に入り、大きな影響を及ぼしている可能性が高いことが分かってきました。
さらに、腸内細菌の種類や割合は人によって様々で、この違いが生活習慣病にかかりやすいかどうかに関わっていることが、最近の研究で明らかになってきています。
たとえば、特定の菌が多いと肥満になりやすい、血糖値が上がりやすいなどの報告があります。
海外では、健康な人の便を肥満の人に移植して肥満を改善させるといった試みもなされ、一定の効果が得られています。
このように考えると、腸内細菌は決して私たちの体に寄生しているわけではなく、私たちと「共生」していると理解するのが正しいと思います。
食事療法が腸内細菌に与える影響
これまでの栄養学は、摂取した栄養が体内に取り込まれた後の代謝について研究し、適切な栄養の割合を推奨してきました。
しかし食事内容は当然、腸内細菌にも重大な影響を及ぼします。
たとえば脂質の多い食事をとると、腸内細菌の割合が劇的に変化します。
この変化が、肥満や糖尿病など生活習慣病の原因の一つであるという説が、近年有力になっています。
すなわち、食事内容を考える場合には、腸内細菌への配慮も必要、ということです。
昨今、糖質制限食が大きな関心を集めています。
確かに糖質を制限すると、血糖値が上がりにくくなり体重抑制効果も期待できます。
しかし、その結果として起こる腸内細菌のバランス変化が健康に及ぼす影響は、ほとんど検討されていません。
過度の糖質制限はさまざまな疾患の誘因になるという研究報告もあり、今後、多面的な検討が必要と考えられます。
薬剤が腸内細菌に及ぼす影響
飲み薬(経口薬)のほとんどは腸から吸収されます。
その際に腸内細菌はかなり高濃度の薬剤に暴露されることになり、大きな影響を受けることになります。
このことが実は薬剤の効果に関わっている可能性があります。
たとえば糖尿病の薬であるαグルコシダーゼ阻害薬は、糖の吸収を遅らせることで食後血糖値を改善しますが、同時に小腸下部まで糖が入り込むことで細菌の種類に影響を与えます。
これが私たちの代謝に影響を与え、肥満の抑制や脂質の改善といった様々な作用につながっていると考えられます。
抗菌薬で腸内細菌を殺すと、血糖値が変わるという研究もあります。
このように、それぞれの薬剤が腸内細菌にどうような影響を与えるのか、今後検討すべき課題であると思います。
適切な細菌との共生は人間の健康に不可欠
腸以外にも、私たちの体には無数の細菌が住んでいます。
適切な細菌のバランスは、生活習慣病のみならず、私たちの健康の維持に重要です。
細菌は時には悪さをしますが、これを「汚いもの」として過度に排除しようとすると、様々な病気を引き起こしかねません。
細菌をいわば「パートナー」として上手に付き合うことは、健康を保つうえで重要なコツの一つと言えるでしょう。
(エスエル医療グループニュース No.144 2016年12月)
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