- 2025.9.11
- 神経内科 渡辺クリニック
- 投稿者:院長 渡辺 正樹

「認知症になるくらいなら、死んだほうがマシ」
「自分に限って認知症になんかならない」
こうした発言をよく耳にしますが、大きな間違いです。
1.認知症の始まり
アルツハイマー病は発症する20年前から、脳内にアミロイドという異常物質が増えていくことから始まります。
アミロイドは程度の差こそあれ、中年期を迎えたら誰でも脳内に生まれます。
「死んだほうがマシ」と捨てゼリフを吐く人たちの脳内にも、おそらくアミロイドがウヨウヨいるはずです。
長生きすれば、誰でもいつかは認知症になるのです。
2.現在の薬とその限界
アルツハイマー病を代表とする認知症は進行していく病気で、現在のところ治療薬は完成していません。
巷で用いられている薬は「3〜4年進行を止める薬」であって、治療薬ではありません。
アルツハイマー病が認知症として現れる20年前から、“敵”は脳内に潜んでいます。
この“敵”がアミロイドです。治療薬というなら、このアミロイドを退治しなければなりません。
ところが、その薬はまだ作れないのです。
戦争に例えるなら、脳という領土にアミロイドという敵がはびこり、神経細胞という住民を攻撃している状態がアルツハイマー病の発症前です。
現在の薬は残った住民に食糧を与えているような働きで、敵をやっつける作用はありません。
最近、このアミロイドを抑える薬が開発されつつありますが、効果はまだ不確かで、何より非常に高額です(1年で600万円!)。
3.発症の流れと適切なケア
しかし、そんなに悲観することはありません。アルツハイマー病は以下の順で進みます。
①中年期にアミロイドが生まれて増える
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②老年期にストレスで神経細胞が弱る
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③老後に神経細胞から神経ホルモンが出なくなる
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→ 認知症(アルツハイマー病)
ということは、以下の順にケアをすれば、アルツハイマー病の発症を遅らせることができると思います。
中年期:メタボを管理してアミロイドを減らす
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老年期:自律神経を整えてストレスに備える
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老後:フレイル(心身の虚弱)を予防して神経ホルモンを増やす
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→ 認知症予防
それぞれの年代で適切なケアをすれば、発症を遅らせることができるはずです。
何を食べて、どう運動して、どんな生活スタイルを送ればよいのかは、その時期ごとに異なります。
僕はこのような考えで患者さんを指導しているつもりです。
4.認知症になってから大切なこと
認知症が発症してしまったら、どんな脳トレより大切なのが 運動 です。
運動の次が脳トレ。僕のクリニックでは「MISSION」と称して運動や脳トレの宿題を出しています。
努力・訓練がなければ薬は全然効きません。
認知症の薬である D 薬と M 薬を合わせて処方すると、1日に1000円近くかかります。
現在、日本で認知症の患者さんは600万人います。そのうち半分の300万人が薬を飲むとすると、1年で1兆円かかる計算です。
疎かに飲んでもらっては困ります。
「頑張らないなら薬も飲まない」くらいの気持ちが必要です。
5.人生100年時代を迎えて
100歳時代に差しかかった我々は、いつか認知症になるという前提で人生を送らなければいけません。
SL医療グループに通っていると、どうしても長生きしてしまいます。
大切なのは、認知症の予防は発症の20年前から始まっている ということ。
そして「認知症と診断されたから人生が変わる」のではなく、それを機会にもう一度、前向きに認知症ケアに取り組んでほしいのです。
認知症から逃げてはいけません。
(エスエル医療グループニュース No.161 2022年8月)
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