80歳で20本の歯
人間だれしも老いていくが、出来れば健康で日々生き生きと老いていきたい。そのための重要な用件の一つとして歯があります。
物を噛む時には、顎(あご)の関節を使って下の顎を動かします。その顎の関節のそばには脳に血液を送り込んだり、古い血液を心臓に返す重要な血管があります。よく噛むことが脳の血液循環を促し、ボケの予防につながることになります。
また、歯とその下にある骨の間には歯根膜というものがあります。この歯根膜はクッションの役割を果たすだけでなく、物を食べたときにその硬さを計って脳に知らせる役目があり、美味しいという感覚を舌と共に伝えるのです。ですから、一本でも多くの歯を残すことが、物を美味しく食べる秘訣になります。そして、歯がなくなると、食べ物がまずくなり、食欲がなくなり、食欲がなくなることで精神的な老化も進んでゆきます。
今、われわれ歯科医は8020(マチマルニイマル)運動を推進しています。これは永久歯、親知らずの歯を含めて32本ですが、80歳になっても20本の自分の歯が残っているように、出来たら一生自分の歯で食べられるように、歯科医と患者さんが努力しようとする運動です。
歯をなくすのは、若い間にはムシ歯で、壮年期からは歯周病(歯槽膿漏)でやむなく歯を抜くことになるからです。この諸悪の根源は歯垢(プラーク)の中のバイ菌です。
歯周病の場合は、コレラならコレラ菌、結核なら結核菌というように、特定のバイ菌が起こすのではありません。口の中には実に200種くらいのバイ菌が常にいます。それら一匹一匹とってみると、ほとんど無害に近いか、毒力の少ない物ばかりですが、「数は力なり」と言うように、バイ菌の数量が問題となります。口の中はバイ菌にとって適温で、栄養分はどんどん入ってくるし、適当な湿り気があり、住みかにするのに都合のよい凹凸が歯の周りにたくさんあります。繁殖するのに誠にいい環境にあります。この歯垢1ミリグラムの中に、実に10億個のバイ菌がいて、その数が倍になる時間は3時間、1個のバイ菌が24時間で256個に増えます。
ですから80歳で20本の歯を残すためには、徹底した日頃の口の清掃が必要となります。口の状態はそれぞれです。歯並びのきれいな人、乱ぐい歯と言われる歯並びの悪い人、また年を取るにつれて歯ぐきが下がり、歯と歯の間にすき間が出来、歯垢がたまりやすくなります。歯科医院では歯垢を染め出して、その人に合った清掃方法をご指導します。ぜひ歯の定期検診、清掃を受け、ハチマルニイマルを達成しましょう。