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子宮のがんを予防しましょう

答える人:すぎやまレディスクリニック 院長 杉山正子
「しきゅうのお知らせ」というコマーシャルがテレビに流れ、子宮頚がんを予防するワクチンができましたと報じられてから1年以上が過ぎました。「子宮頚がん予防ワクチン」といってもがん細胞を消してしまうものではなく、子宮頚がんの原因になるヒトパピローマウィルス(HPV)の感染を予防するものですので、厳密には「HPV感染予防ワクチン」です。
 従来「子宮がん」とひとくくりにされてきましたが、子宮にはふたつの異なるがんがあります。子宮の入り口の部分(頚部)のがんはこのHPVの感染が原因で、「子宮頚がん」といいます。子宮の奥の方の妊娠時に胎児が育つ部分、月経時に剥がれて出血の原因となる部分を子宮内膜といいますが、その部分のがんを「子宮体がん」といいます。こちらは卵巣から分泌にされるホルモンの異常が原因でおこります。子宮がんの80%が頚がんで20%が体がんとされていますが、若い女性の頚がんの増加と全体的な体がんの増加が最近の傾向です。
人間ドックや健診で「子宮がん検診」という場合多くは「頚がん検診」を意味します。頚がん検診は内診とほぼ同じ負担で苦痛を伴いませんが、「体がん検診」は痛みや出血を伴うため不正出血や異常のある方が対象となり、希望によりオプションで行われることもあります。言葉の説明をもうひとつ。「子宮がん」と書く場合子宮の悪性腫瘍全般を意味し、「子宮癌」と書く場合上皮性悪性腫瘍(扁平上皮癌とか腺癌)を意味します。今回これを区別して記すつもりでしたが、その困難さに気付き、すべて「子宮がん」としました。
子宮がんの予防の基本は検診を受けることで、早期に異常を見つけて適切な治療を受けることです。頚がんの場合早期であれば円錐切除という方法で病変部位のみの摘出ですみますし、体がんの場合ホルモン療法で治療することができますから、妊孕性(妊娠可能な状況)を損なわずにすみます。頚がんとHPVの関係がわかってから、細胞診の結果の表現方法が変わりました。Ⅰ、Ⅱ、Ⅲa、Ⅲb、Ⅳ、Ⅴと示されていた日母分類という日本特有の表現から、NILM、ASC−US、LSIL、HSILのような世界共通のベセスダシステムによる表記に変わり、現在は移行期のため両方の結果が記されていることが多いようです。HPV感染の有無の検査も可能になりましたので、今後検診にも取り入れられてくると思います。現在は細胞診による頚がん検診でASC−USという軽度の異型が出た場合のみ保険診療でHPVの検査ができ、それ以外は自費診療で検査をしています。
 HPVは100種類ほどの型があり、容易に感染するため多くの人が持っていて、体のいろいろな部位のイボの原因になっているありふれたウィルスです。そのうちの15種類の型のウィルスが子宮頚がんの原因になるといわれ、主に性行為で感染します。血液の中に入りにくいウィルスで自然の抗体が作られず液性免疫が働きにくいため、感染が繰り返されたり、長期の感染になることがあります。10年以上感染が持続するうちに、異形成という前がん状態を経てがん化に至ります。HPVが細胞に感染したあと宿主のDNAの一部に組み込まれて、細胞の異常増殖を繰り返しながら自己複製していく様は、店子が大家の部屋に住み込んで乗っ取り、勝手気ままに振る舞う様に譬えられます。15種類の型のHPVのうち16型と18型の2種類が特に若い人の頚がんの原因となり、10代20代の頚がんの90%がこの2つの型の感染によります。因みに30代で80%、40代で70%、全体では60%がこの2つの型の感染によります。HPVは殆んどの人が感染するウィルスで、液性免疫が働きにくいのですが、細胞性免疫という異物を排除するもうひとつの免疫機能が働くので、実際には持続感染にならない場合が多いようです。がん化のリスクのあるHPVに感染する人が全体の10%、そのうちの10%が持続感染となり、その10%が高度異形成とよばれる前がん状態となり、その10%ががんになるといわれます。約1万人にひとりががんになるわけですが、誰もがその可能性をもつわけです。
 HPV16型と18型の感染を予防するワクチンができました。カプシドと呼ばれるウィルスの外側の殻だけを遺伝子工学で増殖させ、DNAを持たない偽ウィルスを作成して接種するというものです。感染力を持たず抗体だけが作られ、感染を予防します。先ほど自然では作られにくいと書いた液性免疫が働くわけです。性行為で感染するウィルスですから、性行為を持つ前に接種することが望ましく、現在は中学1年から高校1年までを第一推奨年齢とし、接種に公費補助があります。自治体により異なりますが、名古屋市はすでに無料での接種を行っています。高校2年から45歳までが、公費補助はありませんが、接種が奨められる年齢です。45歳以上は先に書いたようにこの2つの型以外のウィルスの感染が原因となる割合が上がるため有効性が低くなります。初回、1ヶ月後、6ヶ月後の3回接種が必要で、1回15000円から20000円と高価であることと、筋肉注射のため接種部位の痛みが強いことが問題といえば問題です。すでにHPV感染を受けて異形成と診断されている場合のワクチン接種も有効とされています。感染しているウィルスを排除できるわけではありませんが、繰り返されるであろう今後の感染を予防します。すでに16型と18型の2種類のHPVに同時に感染している確率は感染者の8%程度とされています。ワクチン接種が始まって1年余り、日本では約70万人の女性が摂取を受けた計算になるそうです。
 このワクチンは頚がんを100%予防するものではありません。2つの型のウィルスの感染を予防しますが、それ以外の型のウィルスにより発生するがんは予防できません。ですから、ワクチンを接種しても必ず子宮頚がん検診を受けてください。検診とワクチンを車の両輪として頚がんゼロを目指したいというのが私達産婦人科医の願いです。
 平成23年9月から、HPV16型と18型に加えて6型と11型の感染も予防するワクチンが日本でも使用できるようになりました。従来のものを2価ワクチン、新しいものを4価ワクチンと言います。HPV6型と11型は尖圭コンジローマというイボの原因となるウィルスです。がんではありませんが、やっかいな病気ですので、予防ができるのは意味のあることです。2種類のワクチンが使用できるようになって、一時期問題になっていたワクチンの供給量不足も解消されそうです。
 情報としては、15種類の型のHPVに有効なワクチンの開発や、感染したHPVを除去するためのワクチンの開発が進められているそうです。
 最後に子宮体がんについて少し書きます。子宮内膜は卵巣から分泌されるエストロゲン(E)で増殖し、プロゲステロン(P)で委縮します。この2種類のホルモンがバランスよく分泌されると周期的に内膜が剥離して月経が発来します。月経が規則的に発来している間は癌化は起こりません。Eのみの分泌が続き、内膜の増殖が続くと癌化の原因となります。月経が不順となる更年期から閉経期によくみられる状況ですが、閉経後もEはゼロになりませんし、若い世代でも月経不順の方には同様のリスクがあるわけです。Eのみを使用するホルモン補充療法がリスクが高いことはよく知られていますが、ある種のサプリメントもエストロゲン作用を持つため大量摂取や多種類の摂取には注意が必要です。糖尿病や肥満も体がんのリスクを高めます。定期的ながん検診に加えて、不正性器出血をみたときは産婦人科を受診してください。